本棚(書籍・文献の紹介)

当事者・家族が書いた本
支援者が書いた本
文献・報告書等

当事者・家族が書いた本

脳はすごい-ある人工知能研究者の脳損傷体験記
目印はフォーク
交通事故による脳外傷を理解するのにお勧めの本が、「脳はすごい-ある人工知能研究者の脳損傷体験記」クラークエリオット著 青土社と「目印はフォーク」カーラ.L.スワンソン著クリエイツかもがわです。この2冊とも、「歩ける障害者」であるために、外見からは何が起こっているのかわかりにくい交通事故後の高次脳機能障害の状況について、当事者は受傷初期からどんな症状に困惑し、何が困難になっているのか、そんな自分をどうとらえているのかが良く伝わってきます。ただ、「脳はすごい」は厚くて、専門用語も多いので読みにくいという方には「目印はフォーク」がお勧めです。とても読みやすい本で、巻末には、弁護士のアドバイスも記載されています。アメリカの話ですので、全てが当てはまるわけではありませんが、参考になる部分もあると思います。【顧問 山口加代子】

失語症についてよくわかる本
「再び話せなくなるまえに」秋津じゅん(星和書房)は、小児神経科医の秋津さんが脳梗塞により「失語症」になり、それがどんなに辛いことだったのか、そして、何を失い、何を求めて彷徨い、どのように「言葉」を再獲得していったのかが詳細に記載されています。また、失語症だけでなく、情報処理速度の低下や易疲労も生じており、失語症の方に対しても、高次脳機能障害の観点から支援が必要なことが伝わります。【顧問 山口加代子】

「お母さんのこと忘れたらごめんね」石崎泰子著(ブイツーソリューション)
皆さんは抗NMDA受容体脳炎をご存知でしょうか?この病気自体、2007年にDalmauによって報告された「最近分かった脳炎」で、この本はこの脳炎にかかった方のお母様が書かれた闘病記です。
抗NMDA受容体脳炎は自己免疫疾患の一つで、30歳以下の若年者に限ると単純ヘルペス脳炎や帯状疱疹ウィルス脳炎の約4倍の罹患率です。昨年の高次脳機能障害学会でも、30代3例の報告がありましたが、半年近い昏睡や、てんかん発作から回復された方たちに、記憶障害が残りやすいことがわかっています。
当事者の美香さんが元気になられて、就職され、苦労される中で、記憶障害に気づいていく、高次脳機能障害ゆえの苦しみやうまくいかないことと戦いながら、少しずつ前向きになっていかれるご様子が伝わり、皆さんにお勧めしたい本です。
石崎さんは現在、「高次脳機能障害友の会・いばらき」の会員さんで、この本でも、友の会に関わる経過が書かれています。 ちなみに、「8年越しの花嫁」という本も、この病気による重い記憶障害を負った方の実話で映画にもなっています。【顧問 山口加代子】

「日々コウジ中」
「里絵の心絵日記」
文字が多い本はどうも…という方にお勧めなのは「日々コウジ中」柴本礼 主婦の友社です。くも膜下出血で高次脳障害になった「コウジさん」のご様子や、ご家族がどんなことに困惑され、辛い思いを抱くのかが良く伝わるコミックです。前交通動脈の脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血の方の症状がとても良くわかります。特に、お子さんのご様子も書かれているので、高次脳機能障害の当事者の家族がどんなことを日々感じて生活しているのかが伝わるとともに、家族の愛情も伝わってきます。続編も出ています。
もう少し字があっても大丈夫という方には「里絵の心絵日記」 せきね里絵 清流出版をお勧めします。里絵さんの素敵な絵とともに交通事故後「ゼロから出発」する里絵さんの笑顔に勇気づけられる方も多いと思います。【顧問 山口加代子】

「奇跡の脳」
「脳が壊れた」
脳卒中による高次脳機能障害を理解するのにお勧めの本が、「奇跡の脳」ジル・ボルト・テイラー(新潮社)と「脳が壊れた」鈴木大介(新潮新書)です。「奇跡の脳」は脳科学者であるジルさんが脳動静脈奇形による脳出血で失語症が生じるとともに、右脳が左脳から解き放たれて感じたことや、失語症からの回復過程が記載されています。ジルさんの「うまく回復するためには、できないことではなく、できることに注目するのが非常に大切」という言葉は、本当にその通りだなといつも思います。
「脳が壊れた」は41歳で脳梗塞になった鈴木さんが、梗塞が右脳で起こったために、左半側空間無視や注意障害が出現し、それとともに眩しさや感覚過敏、パニック発作に苦しまれたご様子とそれに対処された工夫などが記載されています。比喩表現が素晴らしく、日常生活に戻った当事者が、「本当の地獄は退院後にあった」と退院後の暮らしの大変さが伝わります。【顧問 山口加代子】

高次脳機能障害を生きる
当事者やご家族のご様子が知りたい方には「高次脳機能障害を生きる」阿部順子/東川悦子編著(ミネルヴァ書房)がおすすめです。この本は日本脳外傷友の会(日本高次脳機能障害友の会に呼名変更)の15周年記念事業として2015年に発刊されました。当事者とご家族がご自分の経験を語られ、さらにその方々を支援者した専門家が客観的観点から説明を加えるという構成になっています。11人の当事者とご家族の話が収録されており、関わった専門家もリハビリテーション科医、精神科医、臨床心理士、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、社会福祉士と様々です。まさにタイトル通り「高次脳機能障害を生きる」ってどういうことなのかが伝わって来る本です。【顧問 山口加代子】

支援者が書いた本

高次脳機能障害と家族のケア
高次脳機能障害とは何か、症状について、家族ができること、リハビリテーションは?をお知りになりたい方は「高次脳機能障害と家族のケア」 渡邉修 講談社α新書がお勧めです。家族会顧問の渡邉修先生のこの本は、高次脳機能障害について大変わかりやすく解説して下さっています。社会参加への道筋も記載されているので、いま悩んでいる方が見通しをもつためにもとても良い本です。【顧問 山口加代子】

「支援と物語(ナラティブ)の社会学」
水津嘉克・伊藤智樹・佐藤恵編,生活書院,2020
伊藤先生は富山大学教授であり、富山県高次脳機能障害支援センターでのピアサポート事業にご協力いただいています。本書第4章で「高次脳機能障害者の生き難さを『聞く』ことの多面性」として、ピアサポート事業の事例を通して当事者が来談者と会話を行う中で、ポジティブな効果を持ちうる部分のピックアップを試み、社会学の立場からの考察を加えています。現在、日本各地で高次脳機能障害に関するピアサポートが行われていますが、伊藤先生がご指摘されるように、専門職が第三者の視点から観察し記録を残し、当事者と来談者双方の会話(立ち位置)のバランスを調整しつつ潤滑油の役割を果たすことは大切なことと思っています。私も、神奈川県内に4箇所の当事者・家族会の立ち上げに関わり、今でも参加していますが、この会に当事者家族・専門職の他に当該地域の相談支援専門員等が同席することで支援者育成の場にもつながっていることを実感しています。

また、私は高次脳機能障害や難病患者への支援実践や研究の中でナラティブ・アプローチを用いています。伊藤先生の著書として「『ピアサポートの社会学』伊藤智樹編,晃洋書房,2013」や「難病相談支援のためのハンドブック群馬県難病相談支援センター)」がありますのでご参照ください。【顧問:瀧澤学】

文献・報告書等